[最終更新日]2019年12月11日↺ [読了目安]こちらの記事は5分程で読めます
『ZAIMの教室 財務諸表専門の学校』のこすぴーです。
日本航空(JAL)〈9201〉の株主総会が2019.6.18に行われました。お相手は財務諸表無料講座でも一緒にJALの分析をしたふゆみさんです。
よろしくお願いします!動議もあって約3時間の株主総会となりました!私は初めて動議ありの総会に出席したので、いまいち仕組みがわからなかったです…。
はい、『動議』の仕組みについても学んでいきましょう!他にも財務キーワードとして『自己資本比率』や『配当性向』のことがありましたので、解説していきますね。
あとは、最後の株主さんが『株主総会が騒がしくなって残念…。』と発言していたことも、とても印象深かったですね。
そうだよね。やっぱり一部上場企業だと、色々な歴史があるからね。詳しく探っていきましょう!
➤目次
1.日本航空(JAL)の2019年株主総会情報!
Point ➤飲酒問題の謝罪からスタート!
2.日本航空(JAL)の株主総会の雰囲気は?
Point ➤動議あり!飲酒問題や株主還元の質疑多数あり
3.動議とは何か?株主総会の運営を考える
Point ➤動議には『実質的動議』と『手続的動議』の2種類ある
1.日本航空(JAL)の2019年株主総会情報!
Point ➤飲酒問題の謝罪から始まる!
▸資料1 株主総会の会場
日本航空(JAL)の株主総会終了。
— ZAIMの教室 財務諸表専門の学校 (@zaim_academy) 2019年6月18日
動議もあり約3時間の長丁場でした✈️
飲酒事件や事業戦略など、たくさんの質問と意見がありました。
またブログにまとめようと思います。 pic.twitter.com/CxFamPEZhg
第70期の株主総会はたくさんの参加者で賑わいました!そして、印象的だったのは、冒頭から赤坂社長より、社員の飲酒問題への謝罪がありました。
制限値を越える飲酒量が検知されたり、そもそも不正に検知をしていたりと、行政処分、行政指導にまで至っています。
総会冒頭では、役員一同でご迷惑をかけたことへの謝罪から入りました。
赤坂社長からは「信頼回復に全力で取り組む」とのことでした。
事業報告の映像でも謝罪するシーンがありました。事故に繋がりかねないので、これからのJALの取り組みに期待したいですね!
▸資料2 招集通知
【開催情報】
日時:2019年6月18日(火)
場所:SHINAGAWA GOOS 1階 TKPガーデンシティ品川ボールルーム
質疑応答もかなりボリュームがあり、第2章で詳しく述べるため、当日の議事進行を先にご紹介しておきます。
➤参加者数
大きなホールで開催しましたが、ざっくり1,000名前後かと思います。
➤参加者層
ご年配方を中心に、展示ブースなどを覗いていると、
飛行機好きの方がたくさんいらっしゃいます。
きっと皆さん飛行機も日本航空(JAL)も好きなのでしょう。
➤お土産
特にはありません。
➤スタッフ
とても丁寧に大勢のスタッフで迎えられました。
また、手荷物検査があり、金属製のマイボトルなどは持込禁止のようです。
持ち込んだ場合は、クロークに預ける流れです。
➤展示
JALの活動に関する展示がありました。
ファーストクラスやビジネスクラスの展示があったり、
バイオ燃料の取り組みの紹介がされていました。
▸資料3 展示ブース
➤議事進行
・飲酒事件への謝罪
・監査報告
・事業報告の紹介
・質疑応答(10:35頃)
事業報告はすでに用意された映像を使って15分強紹介されていました。
2.日本航空(JAL)の株主総会の雰囲気は?
Point ➤動議あり!飲酒問題や株主還元の質疑多数あり
今回は『動議』があり、2時間ほど質疑応答がなされました。まずは質問のテーマと特に質疑があった【飲酒問題・整理解雇・株主還元】については詳細に見ていきましょう。会場は録音が禁止のため、多少の語弊があることご了承ください。
<質疑のあったテーマ>
・地方空港にラウンジを置く計画はあるのか
・ヨーロッパ国際線のビジネスクラスの予約が中々できない
・若い人とご年配の人に乗ってもらうようにするにはどうするのか
・シェードを開け閉めの安全上の問題
・空港の民営化による料金の改定があるのか
・小林社外取締役が欠席している理由はなにか
・飲酒以外の安全上の問題は大丈夫か
・保安用のビデオを見てもらう工夫が必要ではないか
・JALグローバルクラブの会員サービスの維持はできるのか
・ワールドエアラインの受賞はおめでたいこと
・女性役員の登用を増やしてほしい
・コールセンターの営業時間について
・役員報酬の減額について
・航空運賃の減額について
①飲酒問題への質疑
まずは、飲酒問題に対する指摘や質問が非常に多くありましたので、
質問内容と回答をまとめておきます。
Q.30年ぶりに飛行機に乗りました。それまでは、御巣鷹の事件もあったし、飛行機の安全上の心配があったのです。緊張もあったので、軽く飲酒してから搭乗しました。飲酒問題が指摘されているが、その乗務員の労働環境はどうだったのか?教えてほしいです。
お詫び申し上げます。安全と結びつけるまで至っていなかったです。対策としては、
1つ目に新型アルコール検知器で厳格にチェックする。
2つ目に安全管理体制、安全管理の中で情報を集める。ストレスがかかっていないか?などはここでチェックしている。
3つ目に飲酒に関する教育をする。アルコールの与える害など、知識の教育をする。あとは意識の教育。安全のプロフェッショナルとして教育をしていく。
飲酒問題は、大きくクローズアップされた問題です。乗務員のストレス、ひとりひとりのレベルまで及んでいなかったです。踏み込んだ健康管理、労働環境だけではないテーマで取り組まないといけない。
2018年から、JALの飲酒問題へのニュースが絶えなかったため、
株主からもこのテーマに関する質問がありました。
これについては、他の株主の質疑応答でも
『“本質的な解決”の意味をもっと具体的に教えて欲しい』
と指摘がありました。
全体にまだ安全に対する意識が染みわたってないと理解しています。
検査時には、時間の制約しかしてなかったので、量をある程度基準化してルールを設けるようにしました。安全を大前提として事業をつくる、それができるような組織のつくりをしたいと思っています。
本質的な課題とはなにか?それは、『なぜ問題を防げなかったのか?』ということです。
不都合なものに対して、目をそらすなどの社内の風土があったのではないか。個々人の悩みや事情により添えていたのか。より真剣に会社は向き合わないといけないのではないか。もう一歩のところを乗り越えて行きたい。会社全体が成長のきっかけとなる。わたしの責任として、取り組んでいきます。
このように、ただの飲酒にとどまらず、チェック機能の問題や健康状態だけではなく、
個々人の事情まで踏み込めていないことを反省していきたいとのことでした。
何度も株主から突っ込んで指摘をされていました。良い方向へ改善できることに期待したいですね!
②整理解雇に関する質疑
2010年の経営破綻以降、基準人員を満たすためにパイロット・客室乗務員を中心に解雇された整理解雇の質疑もありましたので、まとめておきます。
Q.8年前に解雇された問題について。JALの業績は回復しているのに、なぜ会場前でビラを配る行為が終わってないのか?赤坂さんのお話を聞きたい。
(整理解雇についての経緯)2010年に経営破綻をした後、事業規模の縮小をしました。3割をこえる大幅な事業規模の縮小をして、1万6000人を削減した。
そこで、パイロットと客室乗務員の計画人数が足りず、165名の整理解雇を行いました。東京・大阪の最高裁で提訴されることになったが、整理解雇の有効性が決定しました。
労働組合との交渉は引き続きあります。今後、プロフェッショナルを採用するという事業戦略を行っています。そのため、客室乗務員については、数十名を今では採用してお仕事を一緒にしています。
なんとかして解決を図りたいです。ジップエアーの応募していただきました。これからもなんとかならないのか考えていきたく、公明正大でかつ合法的に取り組んでいきたいです。
会場前には、解雇に対する争議の案内やビラが団体から配られていました。
この問題も長らく続いているテーマですので、
お互いにとって良い方向に話が進むことに期待したいですね!
③株主還元に関する質疑
経営管理や株主還元に対する質疑も多数ありました。ここでは、すこし会計的なテーマも入ってきていますので解説いたします。
<解説用語>
自己資本比率、配当性向
Q.2兆円の資産に対して1兆4000億円の売上。そして、自己資産が60%以上ある。普通の会社になったから、株主の配当に応えるようにしてほしい。(中略)もう経営破綻後の制限がないのなら対応していくべきである。自己資本比率60%は大きすぎる。もう少し株主や従業員に還元してほしい。経営者としての考えを教えてほしい。
正確には自己資本比率は60%以上ではなく、57.4%であります。
経営破綻での今の経営です。世界経済が直に影響する業界です。大きなイベントリスクに対応できる体制を確保できるようにしておきたいです。でも自己資本比率が高ければ高い方がいいというわけではありません。(中略)
継続的な配当を行うべきです。上がった時はいいが、下がった時が困ります。自己株式の取得など、機動的に還元をあわせていくべき。
社員がいきいきと働くことです。在宅勤務や健康経営など、環境整備にお金を使っていきます。
給与面も大事。ベースアップは5年連続で行っています。(中略)しっかりした財務基盤ができたと考えており、これから色んな還元をしていくように安定的、継続的にしっかりとした経営をしていきます。
アナリストの予想する数値よりも低いのは知っています。これだけ業績が安定しているので、成長ストーリーを描いていきたく、信頼の回復をしていきたいです。成長戦略を示せるように。
ここで、今回は『自己資本比率』と『配当性向』について解説をしておきます。
すでにご存じの方は飛ばして進んでもらって大丈夫です^^
▸自己資本比率
自己資本比率とは、資産に占める、純資産の割合のことです。
自己資本比率
=純資産(自己資本)÷資産(総資本)×100
▸資料4 自己資本比率
いいかえれば、
貸借対照表における自分の資産のうち、どれだけが自分のものであるのか?
ということです。
今回のJALでは、57.4%でしたのでかなり安定的な安心のできる数値だと思います。
経営破綻前が10%を切っていたことを考えると、
今の日本航空(JAL)はとても安定しているといえますね。
▸配当性向
配当性向は、当期純利益*のうち配当金として分配された金額の割合を示す指標です。
下記の式で求めることができます。
配当性向
=1株当たり配当額 ÷ 1株当たり当期純利益 × 100(%)
=配当金総額 ÷ 当期純利益 × 100(%)
< 補足 >
配当は剰余金から行われるため、当期純利益がマイナスであっても配当が行われることがありますが、この場合はこの指標は計算対象外となります。
*当期純利益は、厳密には『親会社株主に帰属する当期純利益』を指します
今回、別の質問でも配当性向50%を求める質疑もありました。
株主にとっては影響のある指標なので、とても気になるところだと思います。
ここ数年は安定した業績を出しているJALだからこそ、
配当性の向上を求める声が出ているのだと思います。
3.動議とは何か?株主総会の運営を考える
Point ➤動議には『実質的動議』と『手続的動議』の2種類ある
今回のJALの株主総会では動議が2回ありました。そこで『動議とは何か?』について学んでいきましょう。
この動議っていうのが初めてだったので、意味を教えてほしいです!
動議とは、株主総会において、株主側から審議・採決の提案が行われることをいいます。
漢字のとおり、『議案が動く』ということです。
動議には①実質的動議(修正動議)と②手続的動議の2種類があります。
①実質的動議(修正動議)とは?
実質的動議とは、議案の修正に関する実質的な動議のことです。
修正動議とも言います。
会社法上では、株主は、株主総会において、株主総会の目的事項について議案を提出することができると定められています。(会社法304条)
株主に、議題に関する修正動議の提出権を認めるかたちになります。
たとえば、今回の日本航空(JAL)の事例では、
・第1号議案 剰余金の処分の件
・第2号議案 取締役10名選任の件
について、実質的動議を出しました。
それぞれの解釈としては、下記のようなイメージです。
▸第1号議案→『この剰余金の処分では納得いかないので、配当性向をさらに上げるような剰余金の処分とすること』
▸第2号議案→『役員報酬が高額すぎるので下げないのであれば、別の役員を選任とする』
以上のような動議の解釈となります。
このように修正動議を提案した場合は、適切なものである限り、
議長は議案を審議しなければなりません。
そのため、今回は、議長の赤坂社長は採用し、議案の審議へと移りました。
適切とは、あくまで招集通知で案内されている内容を越えないこと。
突拍子のない提案は受け付けられないということですね。
審議の方法も説明するね!
審議の方法としては、『原案先議』という方法をとることができます。
要は、修正議案よりも先に、既に会社が提案している議案の採決をとることができます。
この提案が先に可決されれば、修正動議については否決されたものとされます。
たとえば、今回の日本航空(JAL)の場合はこのような形で進みました。
議長:赤坂社長
ただいま株主様から、第1号議案と第2号議案に対して修正動議の提案がありました。この提案に関しては、後程原案と合わせて採決させていただくこととします。ご賛同いただける株主様は拍手をお願いします。(拍手が起こる)ありがとうございます。議決権の半数以上の株主様のご賛同をいただきましたので、採決させてもらいます。(そして、修正動議の提案よりも先に、既に会社が提案している決議の採決を先にとる→拍手で過半数の可決→動議は否決される)
②手続的動議とは?
手続的動議とは、総会の運営や議事進行に関する手続き的な動議のことです。
たとえば、延期や続行、議長不信任、休憩の有無、審議順序の変更、質問の打ち切りなどです。
今回の日本航空(JAL)の事例ですと、
『質疑応答が十分にし尽くされていないのに、質疑応答をあと2問で区切るべきではない。』
という動議でした。
こちらは議長の裁量のもと、提案が採用されれば採決されることになります。
(今回は、提案は採用されたが否決された)
株主総会の動議について理解は深まりましたか?なかなか、ケースとしては稀ですが、覚えておくと何が起こっているのか理解が進むと思います。
そういう風なルールがあるんですね~。知らなかったです。
今回の株主総会は、動議もあり、質疑応答多数と、かなり複雑なケースでした。
最後の質疑応答である株主さんの指摘が印象に残っていますので、ご紹介しておきます。
<要約>
倒産する前も株主であり、破綻直後に100%減資を味わいました。昔の株主総会も色々なテーマや盛り上がりの騒ぎがありました。今回は、事業戦略についてもっと聞きたかった。競合他社がハワイ路線を攻めに来ているんだよ?戦略をどうするのか、もう少し株主総会という最高決裁の場で聞きたかった。
株主総会について嘆く声も、最後にはありました。たしかに、ANAがハワイ攻略として、ジャンボジェット機「ホヌ」を投入して大幅にJALのシェアを崩しに来ています。今回はここの内容についての質疑はなかったので、ハワイ戦略をもう少し聞きたかった印象も個人的にはあります。
たしかにあまりそこに関する説明はなかったですね…。これからANAは3機のジャンボジェット機でハワイシェアを25~30%まで上げるということなので、現状が30%のシェアを持つJALからしたら死守したいですもんね…。
そうだね。また、今週にもANAの株主総会もあるから、どういう戦略なのかANA側のも聞ければ一緒に勉強していきましょう^^!
今回の記事はここまでとします。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました^^
下記のコラムも、応援の想いをこめて書きあげています。ひと休みしたら、ぜひご覧ください。