[最終更新日]2021年03月23日↺ [読了目安]こちらの記事は3分程で読めます
『ZAIMの教室 財務諸表専門の学校』のこすぴーです。
ANAホールディングス〈9202〉(以下、ANAと表記)の株主総会(第75回)が2020.06.29に行われました。
新型コロナウイルスの影響を非常に受けている企業の代表格です。株主総会の印象としては、”資金繰りは大丈夫なのか?”という質疑応答が多くでていました。今回は有料会員向けに財務面を検証したいと思います。
➤目次
1.ANAの2020年株主総会情報!
Point ➤新型コロナウイルス対策ばっちり!
2.ANA株主総会の質疑応答は?
Point ➤当面は借入金にて手厚いキャッシュを確保!
3.ANAは強い財務体質なのか?(有料会員限定)
Point ➤財務健全性と手元資金を分析!
1.ANAの2020年株主総会情報!
Point ➤新型コロナウイルス対策ばっちり!
今回は新型コロナウイルスの影響で、航空機需要が減少しているなかで大変な関心を集めました!
▸資料 招集通知
【開催情報】日時:2020年06月29日(月)AM10時
➤運営方式
新型コロナウイルスの影響で、検温やマスクの着用、ソーシャルディスタンスを実施しての開催となりました。
➤配当金
今期は新型コロナウイルスの影響により”無配”になります。
これまで増配傾向にはありましたが、やはり昨今の事情で手元のキャッシュを厚くする意味でも無配とのことでした。
■配当金の推移
引用:公式HPより
➤お土産
記念品等のお土産はありません。
➤質疑応答
第2章に載せておきます。
ここでZAIMの教室のご紹介をさせてもらいます!
財務諸表や決算書を読めるようになりたい方向けに、個別指導を行っています。
トレーニングをしてみたい方は、下記のコースをぜひご覧ください!
2.ANA株主総会の質疑応答は?
Point ➤当面は借入金にて手厚いキャッシュを確保!
短い時間ではあったもののたくさんの質疑応答がありました。個人的には財務面での質疑応答が多かったため、大変興味深いものとなりました。
<質疑のあったテーマ>
・新卒採用の中断に対しての方向性
・資金調達の長期的な見通し
・女性役員の登用
・諸外国の航空会社と比べて社長の発信が少ない
・エアバス380の方向性
・小笠原諸島にも飛行機を飛ばして欲しい
・オーバーブッキングの改悪への改善
・JALとの再編はあるのか
・アナリストの見通し公表をどう思うか
・株価が右肩下がりでどう捉えているか
・キャッシュフローが厳しいのではないか※一部聴き取れない箇所もありますのでご了承ください
※質疑応答の内容を詳しく知りたい方はLINE→@zaim.academyまでお問い合わせください。
今回は大きく1つの質問テーマをピックアップしていきます。それは”ANAの財務体質、とりわけ資金調達面”です。
▶︎質問:資金調達の長期的な見通しは?
■応答:
5,300億円の調達を実施。まずは資金ぐりの観点から対応を行った。とはいえ借入だけではなく、コスト・投資の抑制、支払いの延期などキャッシュアウトを抑制して円滑な資金調達を実施したい。
リーマンショックを上回る前代未聞のコロナ危機。航空業界も売上がまったくない状態に陥ったため、借入による手厚いキャッシュを確保しておきたいでしょう。
ANAは、5月28日付けで資金の借入を発表しています。これまでの借入と合わせると5,000億円規模、また融資枠も5,000億円に拡大しているので、合計1兆円規模のキャッシュと株主総会で説明していました。
■資金借入の発表
引用:公式HPより
コロナ収束を見通せないなか、大変な経営が続くと思います。大事なことは、手元のキャッシュを厚くして、当面の売上減少に耐えうること。そして、国内旅行やオリンピックなどへの需要増に速やかに対応することだと思います!
では、果たして説明している通り、ANAの財務面は本当に大丈夫なのでしょうか?次章につづきます。
3.ANAは強い財務体質なのか?
Point ➤財務健全性と手元資金を分析!
財務担当の取締役である福澤氏もキャッシュの説明を質疑応答で繰り返していました。そこで、ANAの財務体質を分析しておき、耐えうる財務を持っているのか検証してみようと思います!
2020年3月時点の決算数値を用いますが、資金調達の発表がありました通り、6月株主総会時点では5,000億円の固定負債を現金にて保有していると捉えた場合の数値も載せておきます。
■短期の安全性分析(ZAIMの教室にて算出)
■流動比率(流動資産÷流動負債×100)
2020年3月期:107.6 %(やや悪い△)
2020年6月時点:201.8%(優良◎)
【Point】
短期的な安全性を示す流動比率は104%!150~200%あれば最低ラインの数値と言われるなか、目先1年以内の安全性の数値としてはやや悪い結果といえる数値でした。
▸流動比率を勉強した方向けの記事
■手元流動性比率(手元流動性[現金及び預金+有価証券]÷(売上高÷12))
2020年3月期:1.45 ケ月(並〇)
2020年6月時点:4.48 ケ月(優良◎)
【Point】
短期の資金繰りの余裕度を示す安全性の指標。手元流動性が高いと、債務返済に必要な資金が確保されているということである。売上がストップしても、どのぐらいの期間、資金繰りに耐えられるか?という視点です。上場企業の平均値は1~1.5か月といわれています。2~3か月以上あると優良な数値。
■中長期の安全性分析(ZAIMの教室にて算出)
■自己資本比率(純資産÷資産×100)
2020年3月期:41.7 %(並〇)
2020年6月時点:34.9%(並○)
【Point】
総資本に占める自己資本の割合を示す自己資本比率ですが、直近の指標は41.7%でした。こちらは、最低ライン30%以上、50%以上あると優良といわれる数値のため、財務健全性はまずまずの数値だと認識できます。
▸自己資本比率を勉強したい方向けの記事
■固定比率(固定資産÷純資産×100)
2020年3月期:186.0%(悪い×)
2020年6月時点:186.0%(悪い×)
【Point】
長期的な安全性を示す固定比率は、固定資産を純資産ですべて賄えているのか?という指標でした。そのため、100%以下であることが望ましい指標なのですが、数値としては悪い数値でした。
飛行機などを抱える航空事業のため固定資産が多くなりがちな企業です。割り引いて考えたとしても、もう少し健全な数値が欲しいところです。
▸固定比率を勉強した方向けの記事
■固定長期適合比率(固定資産÷(純資産+固定負債)×100)
2020年3月期:97. 9%(並〇)
2020年6月時点:78.5%(並○)
【Point】
固定比率が100%を超えた場合にチェックしておきたい固定長期適合率です。こちらは、固定負債まで含めたら、固定資産を賄えているのか?という指標ですので、100%以下が望ましい数値です。97%と並みの数値でした。
▸固定比率を勉強した方向けの記事
■その他安全性分析(ZAIMの教室にて算出)
■有利子負債比率(有利子負債÷純資産×100)
2020年3月期:78.8 %(並〇)
2020年6月時点:125.6%(悪い×)
【Point】
利子がある借金、有利子負債が、自分で調達してきた純資産の金額を超えていないか?比率でチェックする指標です。こちらは100%以下でしたのでまずまずの指標となります。
■D/Eレシオ(有利子負債÷純資産)
2020年3月期:0.78 (並〇)
2020年6月時点:1.25(悪い×)
【Point】
有利子負債比率と似ているD/Eレシオです。こちらは比率で表すのではなく、単位は(倍)で表示します。表す意味自体は同じです。
■ネットD/Eレシオ((有利子負債-現金及び預金)÷純資産)
2020年3月期:0.68(並〇)
2020年6月時点:0.68(並○)
【Point】
有利子負債から現預金を差し引いたものを用いたD/Eレシオであり、純有利子負債比率とも呼べる指標です。実質的な返済額は、有利子負債から手元の現金及び預金を差し引いた金額となります。D/Eレシオが悪くても、ネットD/Eレシオが良い場合は、経営上のリスクは小さいと判断できます。
全体的には、平均的な安全性の財務体質ですが、追加の資金調達を行ったため複雑な指標になりました。借入金5,000億円を調達したため、目先のキャッシュは確かに手厚くなり、キャッシュ面では優良と言われる数値になり、当面の倒産の心配はありません。
しかし、自己資本比率や有利子負債比率など、財務体質的には悪い方に触れています。こちらは長い目で見ると、売上の減少や財務体質の改善が見られない場合、追加の借入ができず資金ぐりが回らなくなるため、経営の手腕が問われます。
これだけ大きな負債を抱える結果になりましたので、2〜3年の経営体質は非常に厳しいものが予想されます。
そのため結論としては、キャッシュ面では優良◎、財務体質は悪化×。今後の売上減少や財務体質が改善されないと危険水域に入ります。
ここまでしっかりと読み進めていただきありがとうございました!
▶︎株価推移(ANA)
引用:ヤフーファイナンス
(2020年3月が急落しましたが少しづつ復調してきましたね!)